食事コントロールをする前に-腎症前期の状態とは-
糖尿病の3大合併症のひとつ糖尿病腎症。病気の進行段階が5つの期に分けられ、「腎症前期」は第1期にあたります。
腎症前期は自覚症状がほとんどなく、尿検査で数値をはからない限り判断がつかないレベルです。この時期は微量アルブミン尿検査でアルブミンの量を調べることが有効とされています。アルブミンは通常の尿たんぱく検査で陽性反応が出る前の状態で尿に混ざるため、腎臓前期なのか第2期の早期腎症期なのか判断が可能です。[1]
腎症前期のアルブミン値の目安は、以下の通りです。
尿タンパク値(g/gCr)あるいは アルブミン値(mg/gCr) |
正常(30未満) |
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腎機能・GFR(eGFR) (ml/分/1.73m2) |
30以上 |
腎症前期の段階できちんと血糖をコントロールできていれば、症状が進行するリスクを抑えられます。ですが、数字を見て正常だからと言って、食生活の改善をせず運動もしなくてよいというわけではありません。
何もせずにいると知らない間に症状が進行してしまい、微アルブミン尿が検出される早期腎症期、尿タンパクが検出されて血圧を下げる治療やたんぱく質の制限が必要な第3期の顕性腎症期、透析治療が始まる第4期の腎不全期、最終的に透析治療が必須な第5期まで悪化する可能性があります。
大切なのは、早期発見と適切な治療です。日頃から腎臓をいたわる食事を心がけましょう。
腎症前期に優しい食事・食材
第1期の腎症前期では、糖尿病食と基本とした食事を取り入れて血糖コントロールを行う段階です。食塩やカリウムに摂取制限はありませんが、高血圧の方の場合は食塩を1日6g未満に制限する必要があります。たんぱく質の過剰摂取も避け、腎臓に負担をかけないことが大切です。
■腎症前期に取り入れる糖尿病食の基本
- 朝・昼・夕・間食の食事の配分バランスを意識する
- 穀物・大豆を除く豆類・かぼちゃなどの野菜を含む炭水化物、魚介・肉・大豆・卵・チーズなどのたんぱく質、ビタミンやミネラルを含む食品を3食どれも均等にバランスよく取り入れる
- 脂質を多く含む食品や調味料、フルーツ、チーズを除く乳製品は料理に合わせて朝・昼・夕食で使う
- フルーツやチーズを除く乳製品は、間食で取り入れても構わない[2]
■塩分を減らす食事
昆布やかつお、煮干しなどのうま味成分が出る食材を使い、ひと手間を加えることで薄味でも美味しく仕上がります。
しょうが、唐辛子などといった香辛料を使うことで、料理にアクセントが効いて塩分を減らすことが可能です。ほかにも、のり・みょうが・ねぎ・シソといった香りの強い食材などを加え、香りや風味を用いて塩だけに頼らない調理を行いましょう。
栄養バランスを意識した低たんぱく・減塩レシピ
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きのこと根菜のきんぴら
ビタミン・ミネラルを多く含む食品のひとつ「きのこ」と、食物繊維たっぷりのレンコンを使ったレシピを紹介します。
- <材料1人分>
レンコン…65g
人参…15g
しめじ…15g
いんげん…8g
サラダ油…2g
<調味料>
砂糖…3g
醤油…4g
かつお出汁…適量
ごま油…少量
鷹の爪…少々
<作り方>1.レンコンは縦に四つ割りにし、3mmの厚さにスライスし水にさらしておく。人参はレンコンと同じくらいの厚さにいちょう切りにする。しめじはほぐし、いんげんは3cmの長さに切る。
2.浅めの鍋に油を熱し、1の材料を炒め、かぶる程度のかつおだしを入れ、砂糖、醤油を加え、煮汁がなくなるまで煮詰める。最後に、好みでごま油、鷹の爪を加える。
<栄養量>
エネルギー:95kcal
たんぱく質:2.3g
食物繊維:2.4g
食塩量:0.7g
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引用:東京都病院経営本部
ポイントは、かつおだし、ごま油、鷹の爪を使って風味を出すことです。醤油や砂糖だけで味付けをしてしまうと、量を加えるだけでしか調整ができません。
うま味成分を加えて味に深みを出し、ごま油や鷹の爪で香り付けをすると醤油や砂糖の量を抑えられ、血糖コントロールが可能になります。レンコンと人参を3mm程度の厚さに切ることもポイントのひとつ。味なじみが良くなり、少量の調味料でもしっかり味付けができるでしょう。
また、きのこ類はエネルギー量が少ないので、炭水化物のように量を気にすることなく食べられます。食物繊維を取れるだけではなく、満足感があり低たんぱくで塩分の少ない一品です。
気を付けるポイント
腎症前期は糖尿病食で血糖コントロールが基本となりますが、重要なのはたんぱく質の摂取量です。
体内の余分なたんぱく質は腎臓でろ過され、尿となって輩出されます。腎臓の機能が低下し始めると、たんぱく質をろ過する働きが腎臓に負荷を与えて腎症の進行を早めてしまうためです。
ここでは、摂取する量とたんぱく質の種類に気をつけるポイントを紹介します。
■炭水化物と脂質の量で調整する
ただ単純にたんぱく質を減らすと指示エネルギー量を下回るため、炭水化物や脂質の配分を増やしてエネルギーを補う必要があります。
エネルギー量を十分に満たしていれば、たんぱく質は筋肉や血液を作り出す本来の役割のみに使われるため、栄養素として効率良く体に吸収され腎臓に負担をかける心配はありません。炭水化物を増やすと血糖コントロールが難しい場合は、低たんぱく食品を取り入れる手もあります。
■たんぱく質の種類に注目
たんぱく質が含まれるすべての食材を控えるのではなく、食材によっては取ることができます。
牛肉・豚肉・鶏肉などにはアラニン、アルギニン、グリシンといったアミノ酸成分が多く含まれ、腎臓の血流を増やし負荷をかけてしまいます。腎臓に負担をかけずにたんぱく質を取る場合は、大豆などの植物性か、または動物性のたんぱく質でも鶏卵や牛乳、チーズなどの食材がおすすめです。
避けたい動物性 のたんぱく質 |
牛肉、豚肉、鶏肉、マグロの赤身など |
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取り入れたい動物性 のたんぱく質 |
鶏卵、牛乳、チーズなど |
取り入れたい植物性 のたんぱく質 |
大豆、大豆製品[3] |
まとめ
基本の糖尿病食で問題ありませんが、「血糖コントロール+たんぱく質制限」が不可欠。ただ制限するではなく、摂取するたんぱく質の種類にも気をつける必要があります。
すべてのたんぱく質がNGではなく、バランスに配慮すれば摂取も可能です。量と食材を組み合わせ、コントロールしていきましょう。
食べ方だけではなく、栄養にも気を付けよう

腎症前期は初期段階の糖尿病腎症なので、食事による改善がメインです。血糖コントロールを行うためには、食事のバランスはもちろんのこと血糖値を下げる効果が期待できる成分を摂取する方法もあります。
腎臓に負担をかけないためにたんぱく質や塩分の控え、糖尿病にも配慮して酵素やサポニン、クロムなどの血糖値にアプローチする成分にも注目し、食事に取り入れてはいかがでしょうか。
[1]参考:一般財団法人 全国腎臓病協議会:4.糖尿病性腎症
[2]参考:東京都病院経営本部:食事療法のすすめ方 糖尿病の食事
[3]参考:糖尿病ネットワーク:食事療法のコツ(3)腎症のある人の食事